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東京高等裁判所 昭和52年(行ケ)192号 判決

原告

ヨゼフ・シュナイダー・ウント・コ・オプテイツシエ・ウエルケ

被告

特許庁長官

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

この判決に対する上告期間につき、附加期間を90日とする。

事実

第1当事者の求めた裁判

1  原告

特許庁が、昭和52年6月24日、同庁昭和51年審判第1555号事件についてした審決を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

2  被告

主文第1、2項と同旨の判決

第2当事者の主張

1  請求の原因

1' 特許庁における手続の経緯

原告は、昭和45年5月29日、1969年(昭和44年)6月12日のドイツ連邦共和国への出願に基づく優先権を主張して特許出願(昭和45年特許願第45724号)をし、昭和49年3月29日、実用新案法第8条第1項の規定により、名称を「映画・及びテレビ撮影カメラ用バリオ対物レンズ駆動装置。」とする考案についての実用新案登録出願に変更したが、昭和50年9月19日、拒絶査定を受けた。そこで、原告は、昭和51年2月27日、審判の請求をし、昭和51年審判第1555号事件として審理された結果、昭和52年6月24日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は、同年7月27日原告に送達された。

なお、原告のための出訴期間として、3か月が附加された。

2' 本願考案の要旨

「一方のユニツトを焦点距離変化のため、他のユニツトを対物レンズの焦点合わせに使用する2個の駆動ユニツトより成り、伝達要素を介して調整装置に連結されており、前記駆動ユニツトが光学的スライド部材の走行速度および位置を調整する、電源に接続した制御卓に接続された光学的スライド要素を軸方向に移動させるようにし、各駆動ユニツト(8)および(9)を1個のモーターと1個の伝動装置とで形成し、各駆動ユニツト(8)および(9)に駆動装置の他に速度計用発電機およびサーボ増幅器を設けさらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を設け、この連結装置により前記各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして成る映画及びテレビ撮影カメラ用バリオ対物レンズ駆動装置。」(別紙図面参照。)

3' 審決の理由の要旨

(1)  本願考案の要旨は、前項記載のとおりであると認める。

(2)  一般に可変焦点距離レンズ系を有する撮影カメラにおいて、焦点距離変化と対物レンズの焦点合わせのための駆動力を別々のユニツト化されたモータによつて与えることは、テレビ提影カメラ等の大型撮影カメラ用のレンズ系駆動装置として周知であり、そのようにユニツト化された各駆動ユニツトを必要に応じて子備のユニツトと交換することも、装置の複雑化に伴つて生ずる故障の修理や機能変換の迅速化のために行われている慣用手段である。原審の拒絶理由に引用された実公昭40-32342号公報(本件甲第6号証)に示されたものは、単一の駆動ユニツトを複数の駆動部の内、任意の駆動部に適用できるようにしたものであるが、これは最初から単一の駆動ユニツトしか用意していないからであつて、前記公報において各自動車玩具にそれぞれ駆動ユニツトを装着してあれば、本願同様に故障した駆動ユニツトだけを交換できることは明らかであり、その意味では本願と思想的に何ら相違は認められない。

また、本願の各駆動ユニツトには、駆動装置の他に速度計用発電機およびサーボ増幅器を設け、さらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を設けてあるが、ユニツトの中に組込む装置をどのようなものとするかということは、ユニツトの使用目的に応じ任意に選択し得る単なる設計事項にすぎず、電動駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を一体的に設けることも、カメラの電動巻上装置等に使用されている慣用手段である。

結局、本願は前記周知および慣用手段を単にテレビ撮影カメラの駆動装置に単に転用したにすぎず、格別な技術手段および作用効果は何も認められないから、当業者が前記周知および慣用手段に基づき、極めて容易に考案できたものと認める。

したがつて、本願は実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができない。

4' 審決を取り消すべき事由

審決は、つぎに述べる本願考案のもつ特徴や作用効果を看過したことにより、本願考案の進歩性を誤つて否定したものであり、違法であるから取り消されるべきである。なお、審決理由中、駆動ユニツトを必要に応じ予備のユニツトに交換することおよび故障した駆動ユニツトだけを交換できることが、本願出願前周知の技術であつたことは、争わない。

(1)  本願考案の特徴(1)

焦点距離変化のための駆動力と対物レンズの焦点合わせのための駆動力をそれぞれ同一構造のユニツト化されたモーターで与え、それぞれ同一構造の各駆動ユニツトを必要に応じてそれぞれ同一構造の予備のユニツトをもつて交換できるようにした点に本願考案の特徴の1つがある。

このことは、本願の実用新案登録請求の範囲における「一方のユニツトを焦点距離変化のため、他のユニツトを対物レンズの焦点会わせに使用する2個の駆動ユニツトより成り、……各駆動ユニツト(8)および(9)を1個のモーターと1個の伝道装置とで形成し、各駆動ユニツト(8)および(9)に駆動装置の他に速度計用発電機……を設けさらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を設け、この連結装置により前記各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装置できるようにした……」との記載ならびに考案の詳細な説明における「駆動ユニツト8と9は、その構造、その大きさ並びに電気的及び機械的連結において同一構成であつて」(明細書第5頁15行ないし17行目。第6頁4行目にも同旨の記載がある。)などの記載から明白である。

このように本願考案において、ユニツト化された複数の各駆動ユニツトを同一構成のものとすることにより、焦点距離変化のための駆動ユニツトと対物レンズの焦点合わせに使用する駆動ユニツトの両方のユニツトが故障した場合にも、予備のユニツト(全部が同一構造のもの)のうちから任意のものを2個選んで交換し、一方のみが故障した場合には同一構造の予備のユニツトのうちから任意の1つを選んで交換することができるのである。

これによつて、各ユニツトの交換のための労力と時間を節節することが可能となる。この作用効果は、秒きざみのスケジユールで撮影を進行させるテレビ界では、焦点距離変化のための駆動ユニツトと対物レンズの焦点合わせのための駆動ユニツトとを別構造のものとする場合に比べて計り知れない効用をもたらすものである。

しかるに、審決は、本願考案が、焦点距離変化のための駆動ユニツトと対物レンズの焦点合わせのための駆動ユニツトを同一構成とした点を看過して、「焦点距離変化と対物レンズの焦点合わせのための駆動力を別々のユニツト化されたモーターで与えることは周知であり、かかるユニツト化された各駆動ユニツトを必要に応じて予備のユニツトと交換することは慣用手段である」とした。しかしながら、本願出願当時においては、本願明細書の引用にかかる英国特許第1130、775号明細書(本件甲第9号証)添付の図面にみられるごとく焦点距離変化と焦点合わせのための駆動ユニツトを別の構成としたものが公知であつたにすぎず、本願考案のごとく焦点距離変化のための駆動ユニツトと対物レンズの焦点合わせのための各駆動ユニツトを同一構成のものとしたものは、「周知」でも「慣用手段」でもなかつたのである。本願考案は、各駆動ユニツトを同一構成とした点で新規な考案であり、これにより前叙の格別の作用効果を奏するものであるのに、審決はこれを看過しているから違法である。

(2)  本願考案の特徴(2)

本願考案は、同一構成の各駆動ユニツトを直接「対物レンズに装着できるよう」にした点において、新規性と進歩性がある。すなわち、従来は、例えば、前掲英国特許の制御装置のように、焦点路離調節用と対物レンズの焦点調節用のサーボモータを可撓軸によつて光学的にスライド要素の調節機構に連結し、該サーボモータを対物レンズから離して設けた調節装置が知られていただけであつて、駆動ユニツトを直接対物レンズに装着できる装置は知られていなかつたのである。

本願の実用新案登録請求の範囲には、本願考案が、(A)「各駆動ユニツト(8)および(9)を1個のモータと1個の伝動装置とで形成し、各駆動ユニツト(8)および(9)に駆動装置の他に速度計用発電機およびサーボ増幅器を設け」るのみならず、(B)「さらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を設け、この連結装置により前記各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして成る、」(C)「映画およびテレビ撮影カメラ用バリオ対物レンズ駆動装置」であることが記載されている。ところで、各駆動ユニツトを対物レンズに直接装着できるようにするためには、各駆動ユニツトに電気的および機械的連結装置を設けるだけでは足りないことは、本願明細書の考案の詳細な説明および添付図面によつても明らかであり、各駆動ユニツトを直接対物レンズに装着するためには、電気的および機械的連結装置のほかに本願明細書の添付図面中14の案内ボルトのごとき係止部材を必要とするが、このことは、当業者であるば、誰でもわかるところであるから、実用新案登録請求の範囲の「電気的連結装置および機械的連結装置」には、当然この案内ボルト14を含むものと解釈すべきものである。

この点、本願考案と同じくテレビ撮影用カメラに関する公知技術である前掲英国特許明細書には、前叙のとおり各駆動ユニツトを可撓軸を介して間接的に対物レンズに構成する技術が示されているにすぎないのであるから、審決が「電動駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を一体的に設けることも、カメラの電動巻上装置等に使用される慣用手段である」と認定するについては、根拠となりうる資料を示すべきであつて何らの資料を掲げずに本願考案のもつ前記の構成を慣用手段と断定することは違法というべきである。

(3)  本願考案の格別の作用効果

本願考案は、各駆動ユニツトを前叙のとおり構成することによつて、「単独に交換可能に対物レンズに装着できる」ものとなつた。すなわち、「簡単で極めて迅速な交換を行えるように」(本願明細書策3頁9行および10行目)、「これらの部分を一緒に或は各単独に、工具を必要とせずに、カメラマンが短時間内に容易に交換して着脱できるように」(同頁10行ないし12行目)なつたのである。

この作用効果は、本願考案によつてはじめて達成されたものであつて、当業者が公知技術(例えば、前掲の英国特許)から到底想到しえないものである。このような格別の作用効果を看過した点において、審決は違法というべきである。

2  被告の答弁および主張

1' 請求の原因1ないし3の事実は、認める。

2' 同4の取消事由の存在に関する主張は、争う。

審決の判断は、正当であつて、これを取り消すべき違法はない。

(取消事由(1)の主張について)

原告は、同一構成の駆動ユニツトを2個設けることは知られていなかつた旨主張するが、互換性をもたせるために同一規格品を使用することは設計上の慣用手段であるから、2つの駆動ユニツトを用いるものにおいて、それらを同一規格のもとにすることは、特別の理由のない限り当然の設計である。このことは、原告提出にかかる英国特許第1130、775号明細書(甲第9号証)の第1頁55行ないし58行目にも示唆されている。

(取消事由(2)の主張について)

原告は、本願考案は、同一構成の各駆動ユニツトを直接対物レンズに装着できるようにした点において新規性と進歩性がある旨主張するが、本願実用新案登録の請求の範囲には単に、「対物レンズに装着できるようにして成る…」と記載され、「直接」装着するとの記載がないから、本願考案における「装着」は、直接、間接の別を問わないと解されるものである。原告が、どのような状態の装着をもつて、「直接装着」というのか明確ではないが、少くとも、本願実用新案登録請求の範囲には「連結装置により前記各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして成る…」と記載されていることからして「連結装置」という介在物を有することになり、この点における原告の主張は、上記の請求の範囲の記載とも矛盾するものである。

(取消事由(3)の主張について)

本願実用新案登録請求の範囲には「各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして成る…」とのみ記載されているにすぎないから、上記の記載をもつて、原告が主張するように「簡単で極めて迅速な交換が行えるようにし、これらの部分を一緒に或いは各単独に、工具を必要とせずに、カメラマンが短時間内に、容易に交換して着脱できるようにする効果」を奏するに足りる構成が記載されているものとはいえない。すなわち、「各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして成る」との記載は、何ら本願考案の構成を特定するものではなく、単なる効果の記載にすぎず、また、「工具を必要としない」という目的、作用効果を奏するのに必要な特定の構成は、本願実用新案登録請求の範囲のどこにも記載されていないのである。

理由

1  請求の原因1ないし3に関する事実については、当事者間に争いがない。

2  そこで、審決を取り消すべき事由の有無について判断する。

1' (原告主張の特徴(1)について)

本願考案の実用新案登録の請求の範囲(成立につき争いのない甲第5号証手続補正書)においては、各駆動ユニツトに関し、実施例についての図面中の符号(8)(9)を引用し、同図面においては、符号(8)および(9)の各駆動ユニツトが同じような長方形で図示されており、かつ、考案の詳細な説明には「この駆動およびスライド機構は各1個の駆動ユニツト8若しくは9と駆動連結され、そのおのおのはモータ、連動装置、サーボ増幅器及び実際値発信器より成り、ケーシング1に取外し可能に取付けられる。駆動ユニツト8と9は、その構造、その大きさ並びに電気的及び機械連結部において同一構成であつて」(明細書-成立につき争いのない甲第2号証の2-第5頁10行ないし17行目)、「第3図は2つの同一構成の駆動ユニツトを示し」(同第6頁4、5行目)、「このようにして同じ両駆動ユニツトを必要に応じて互に交替させることができる」(同第7頁5、6行目)などの記載があることが認められる。

しかしながら、本来、実用新案登録請求の範囲の記載にあたつて、図面中の符号を用いるのは、その考案の技術的創作の内容をより理解しやすくするための補助的手段にすぎない(実用新案法施行規則第2条に基づく様式3〔備考〕12ロ参照。)から、当該考案の要旨となる技術内容が符号を用いて図示されたもののみに限定解釈されるべきものではない。考案の技術的創作の内容は、実用新案登録請求の範囲に記載された文言に基づいて合理的に解釈認定されるべきものであり、その記載に矛盾や不明瞭な点があればともかく、実用新案登録請求の範囲における記載文言上、不明瞭なところがなく、考案の技術思想を理解できる場合には、考案の要旨を実施例についての説明もしくはそこに図示された具体的構成のみに限定して解釈認定することは許されないところである。

これを本件についてみるに、実用新案登録請求の範囲には「一方のユニツトを焦点距離変化のため、他のユニツトを対物レンズの焦点合わせに使用する2個の駆動ユニツトより成り、」各駆動ユニツトは「1個のモータの1個の伝動装置とで形成し、」「他に速度計用発電機およびサーボ増幅器を設け、さらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置を設け」との記載があるのみで、駆動ユニツトが他に具備すべき機器もしくは装置についての限定はなく、また、駆動ユニツトの具体的形態についての特定もなされていない。

また、本願考案の明細書(前掲甲第2号証の2)には「本考案の目的は、焦点距離及び/或は焦点調節のために設けた制御装置の、簡易で極めて迅速な交換を行えるようにし、これらの部分を一緒に或は各単独に、工具を必要とせずに、カメラマンが短時間内に容易に交換して着脱できるようにした、可変焦点距離を有する対物レンズ用の駆動装置を得んとするにある。」と記載されている(第3頁8行ないし14行目が、上記の本願考案の目的は、さきに認定した条件の駆動ユニツトによつても充分に実施可能であつて、必ずしも同一構造の駆動ユニツトを不可欠の構成としていないことは明らかである。このように、本願考案の目的に照らして、実用新案登録請求の範囲の記載を理解するならば、本願考案が、各駆動ユニツトを、具備すべき機器もしくは装置ならびに形態などすべてを同じくする全く同一の構造のものとすることを要件としたものといえないことは明白である。したがつて、考案の詳細な説明や実施例についての図面に、当初認定したごとき内容の記述があるとしても、これをもつて、本願考案における各駆動ユニツトを原告主張のごとく、全く同一構造のものに限定すべき根拠とすることはできない。

2' (原告主張の特徴(2)について)

原告は、本願考案が、各駆動ユニツトを「直接」対物レンズ(正確には、そのケーシングと解される。)に装着できるようにした点で新規性と進歩性があると主張する(原告のいう「直接」装着とは、両者が相接するように装着することと解される。)が、実用新案登録請求の範囲の記載文言上から、本願考案は、各駆動ユニツトを直接対物レンズ(ケーシング)に装着するものに限定して解釈されるべき理由はないと考えられる。すなわち、各駆動ユニツトの装着の要件に関する実用新案登録請求の範囲の記載をみるに、各駆動ユニツトに「電気的連結装置および様械的連結装置を設け、この連結装置により」、「単独に交換可能に」、「対物レンズに装着できるようにして成る」との記載があるのみで、各駆動ユニツトを直接対物レンズ(ケーシング)に装着すべき考案と限定解釈すべき何らの規定もない。

この点、原告は、駆動ユニツトを装着するためには、実施例についての図面における符号14の案内ボルトのごとき係止部材を必要とすることは、明らかであるから実用新案登録請求の範囲におくる「連結装置」のなかには、当然、この案内ボルト(符号14)を含むものと解釈すべきであると主張するが、本願考案の実用新案登録請求の範囲には、前叙のとおり「連結装置」に関して、その構成を特定のものに限定すべき記載は見当らないから、本願考案における「連結装置」には、実施例についての図面において符号14として図示されたような案内ボルトのごときものに限定されるべきものではない。

上記のごとき実用新案登録請求の範囲の記載文言を、前記引用したごとき本願考案の目的に照らして理解すると、本願考案は、各駆動ユニツトの交換を可能にすることを目的としたもので、原告主張のごとく各駆動ユニツトを対物レンズ(ケーシング)に直接装着することを要件とする考案とみることはできない。

したがつて、本願考案は、本願明細書において公知技術として紹介されている英国特許第1130、775号(甲第9号証)のごとく、駆動ユニツトを対物レンズとの間に可撓性ケーブルを介して装着するような場合をも含むものと解釈せざるをえない。

そうすると、この点において、本願考案に新規性と進歩性があるとする原告の主張は、首肯できない。

なお、この点に関連し、原告は、審決が根拠となるべき資料を示すことなく、「電動駆動ユニツトに電気的連結装置および機械的連結装置と一体的に設けることも、カメラの電動巻上装置等に使用されている慣用手段である。」(審決第2丁裏7行ないし10行目)としたことは違法である旨主張するので言及する。

審決は、カメラ技術の分野にあつては、必要に応じて駆動ユニツトに電気的連結装置と機械的連結装置とを一体として設けることは技術水準として普通の手段とみたことから、特定の文献を示さなかつたものであることは、審決の記述からして明らかであつて、慣用手段と判断するなめの資料として特定の文献を示さなかつたこと自体を違法とみることはできない。しかも、審決は、電気的連結装置と機械的連結装置を一体的に設けたものとして、カメラの電動巻上装置を具体的に例示しているのであるから、慣用手段と認定した根拠を示さなかつたとの非難も当らない。

この点の技術水準の認定に関し、審決の認定が正当であることの補強として提出されたことの明らかな、成立に争いのない乙第1、2号証(いずれも、昭和37年10月6日公告の対物レンズのレボルバならびに取付可能で電動機により作動のシヤツターおよびフイルム巻上装置を有する写真機に関する特許公報)には、フイルム巻上用のモーターおよび伝動装置を内蔵し、カメラに着脱自在としたケーシングに、カメラの駆動軸と連結する継手(機械的連結装置)およびカメラのシヤツターと巻上用モーターを接続する差込形電気接点(電気的連結装置)を一体的に設けた電動のフイルムの巻上装置が記載されており、かつこれらの公告後本件出願までにかなりの年月が経過していることからすると、審決が、電気的連結装置と機械的連結装置とを一体的に設ける技術を慣用手段とみたことが誤りであつたとはいえない。

3' (原告主張の作用効果について)

原告は、本願考案が「簡単で極めて迅速な交換を行えるようにし、これらの部分を一緒に或は各単独に、工具を必要とせずに、カメラマンが短時間内に容易に交換して着脱できるようにした」(明細書第3頁9行ないし13行目)点で格別の作用効果を奏し、これらの作用効果は、前掲英国特許第1130、775号のごとき公知技術からは、予測し難いものであると主張する。

ところで、本願考案の明細書が、公知技術として引用している前掲英国特許の明細書には「多様な構成部品のすべてを単一ユニツトとして有することにより、該ユニツトは、交換可能となり、故障時に取り替えることができる」(英国特許明細書第1頁55行ないし58行目、訳文第3頁13行ないし16行目)という効果が記載されているから、これを本願考案のものと比較すると、いずれも、交換可能であつて各駆動ユニツトを一緒にあるいは単独に交換着脱できる点で共通するが、本願考案の方が、交換が、簡単で極めて迅速にでき、工具を必要としないとされている点で、一応相違するようにみえる。

しかしながら、本願考案の実用新案登録の請求の範囲の記載文言をみると、「さらに前記駆動ユニツトに電気的連結装置および機械械的連結装置を設け、この連結装置により前記各駆動ユニツトを単独に交換可能に対物レンズに装着できるようにして」とあるのみで、駆動ユニツトを簡単で極めて迅速に、かつ工具を必要とせずに交換するための具体的な構成要件は記載されていない。上記の「連結装置」が実施例についての図両における符号14の案内ボルトののごとき係止部材に限定されないことは、前判示のとおりであり、かつ、本願考案の明細書の記載をみても、「連結装置」を特定の構造のものに限定して解釈すべき根拠は、見当らない。

したがつて、原告が、本願考案の格別の作用効果と主張するところは、一実施例の作用効果とはいえても、本願考案の有する作用効果とみることはできず、この点における原告の主張は認めることができない。

4' 以上のとおり、原告の主張する本願考案の特徴とする構成および作用効果は、いずれも家用新案登録請求の範囲の記載上、特定されていない構成に基づくものであつて、これらを是認することはでききない。

したがつて、審決にこれらの点を看過した誤りがあるとする原告の主張は、失当であり、審決が、本願考案は、周知および慣用手段(この点については、前記争点に関し判断したところのほかは、原告も争わない。)に基づいて極めて容易に考案できたものと認めたことは、正当であつて、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないとした審決には、何ら違法はないというべきである。

3  よつて、原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条、上告のための附加期間につき同法第158条第2項を各適用して主文のとおり判決する。

(小堀勇 高林克巳 舟橋定之)

〈以下省略〉

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